第36回 南瓜(かぼちゃ)のグリル、玉葱のソース

8月29日(土)

二泊三日はあっと言う間だ。
もう横浜へ帰る日。

時間を惜しんで、早起きをする。
普段なら、朝が弱いからとつい寝坊ばかりだけれど
結局のところ、そこに魅力的なものがあれば
ちゃんと起きられるものだ。

朝六時からスタートする市場へ。
観光マップにも乗っていない
地元の人が集まる場所。

七時頃着いたのだけれど、すでに野菜はほとんどない。
もう売れてしまったそうだ。
栗を一袋だけ頂いて帰る。
 
 
他にもいろんな市場を巡った。
当たり前に新鮮で、そしてびっくりするくらい安い。
あれこれ買いたい気持ちをぐっと押さえて
傷みやすい野菜には手をのばさず、
比較的日持ちのしそうなものを探す。

南瓜の種類がたくさんあって驚く。
食材図鑑でしか見たことのなかったバターナッツもある。
大根のような大きさのズッキーニもある。
雪化粧は横浜で買い求めた時の
1/4の値段で売っている。

ひょろひょろと長い六尺豆や
まさにナタの形をしていて
随分と固いナタ豆なども買う。

ずっと探していたオクラの花もあった。
袋の中で、黄色い大輪の花が咲いている。
食用に栽培されているものだ。

花もネバネバして
ちゃんとオクラの味がするそうだ。

家に戻り、横浜に送る野菜の梱包をする。
結構な量になってしまった。
四苦八苦しているところに、
一台の軽トラが庭に入って来た。

洗濯物がかかっとったから
誰かおるんじゃろかなー思っての
と、見知らぬおじさん。  
東京のおばちゃんの同級生だそうだ。

おばちゃんが無花果は天ぷらにしたら美味しいんじゃゆうて
気にしちょっちゃったからのー、と。

どうやらこの人にも天ぷらの話をしたらしい。
よっぽど好きなのだなあ。

まだあまり熟していないのだけど
膨らんだものは全部収穫しましたと伝えると、
うちの畑にも無花果がなっとるから
取っていきんさい、とおじさん。

勝手に入って、好きなだけどうぞ
だなんて、夢のようなお話。
ありがたく収穫させて頂くことにする。

おじさんの畑は、家から5分くらいのところにあった。
あぜ道をしばらく歩き、
青いネットで覆われた果樹園に着く。

無花果は、おじいちゃんの無花果とは違う品種で
スーパーでよく見かける深い赤色のぽってりしたものだった。
おじいちゃんの無花果は日本に昔からある在来種で、
おじさんの無花果は海外からやってきたものらしい。

無花果の他、葡萄やプルーン、柿、栗もあった。
熟れた果物の香りが、辺り一面に漂っている。
とても甘ったるくて、うっとりする。
なんて魅力的で官能的、そして圧倒的なんだろう。

この香りの深みにはまってしまったら、
食べるだけじゃなくて、干したり、
発酵させたり、あらゆる手を使って
日々楽しんでみたいと思うのが自然の成り行きだと思う。
そうやって人は、食べ物を楽しんできたのかもしれない。

スーパーで並んでいるだけでは
この香りのすごさを感じることはできない。
食べ物に興味のない人や大事にしない人がいても
仕方のないことだと思う。

でも人は毎日食べないとならない。
だからこそ、例えば香りに圧倒されるような
そんな瞬間を皆が体験できたら良いのにと思う。
そうすれば自分の口に入るもの、それを作ることを
もっと考えるようになって、
もっと大事にできるようになるかもしれない。

少し足を伸ばしたり、環境を見直したり、
少し意識するだけでもできること。
知らないなんてもったいないな。

無花果やプルーンが増えた。
東京のおばちゃんには無花果の二便目を送る。

近所に挨拶に行く。
戸締まりをする。
天気がいい。窓を閉めるのが少し辛い。

庭に出て一通り眺める。
おじいちゃんが建てた作業小屋のある
この庭がとても好きだ。

何があるわけではないけれど
私の好きなものがたくさんある。
おじいちゃんやおばあちゃんが
ついさっきまで暮らしていた跡が
あちこちに残っている。

施設にいるおばあちゃんに挨拶にゆく。
出発予定の時間を随分と越えてしまったけれど
のんびりと話す。

帰って来ても、家に人はおらんし、
飯もないんじゃけ、もうあんまり来んじゃろ
と珍しくおばあちゃんが弱気なことを言う。

10月になったら棗(なつめ)の収穫をしなきゃならないから
また来るつもりだと伝える。

またきんさいね、といつもより
小さな声でおばあちゃんが言う。

ドアの手すりにつかまって、
手を振るおばあちゃんがだんだん小さくなる。
見えなくなるまで送ってもらう。
 

 
小さな椅子を抱えて
横浜に戻る。

おばあちゃんの家には長い年月を過ごして、
勝手にアンティーク化した
味わいのあるものがごろごろしている。

帰るたび、いつも何かしら頂く。
今、我が家があまり片付いていないので
今回はよくよく選んで少しだけ。

金色の縁の模様がかわいいグラス。
何年か前に頂いたカップと
同じものがまだあったのでそれも。

抱えて帰ってきた小さな木の椅子。
朱色が鮮やかな有田焼の小鉢。

鍋だかボウルだかわからないもの。
納屋にぶら下がっていた玉葱と
大きなじゃがいも。

玉葱を束ねていた、端切れに
いきいきと働いていた
おばあちゃんが見える。
 

たくさんの南瓜を並べて楽しむ。
細長いものを割ってみると
とてもみずみずしくて、でも熟した甘さもあって
良い香りが漂った。

保存のきく、南瓜。
しばらくは眺めて、おばあちゃんと広島を
心の隅に置いておきたいと思う。(2009年9月15日更新)

コラム

南瓜のグリル、玉葱のソース


材料:南瓜 1/2個、 オリーブオイル 大さじ1、 にんにく 1かけ、 塩、胡椒 適量
   玉葱 1/2個、 醤油 大さじ1、 酢 大さじ1
 
1)スライスした南瓜、にんにくを耐熱皿に並べ、塩、胡椒、オリーブオイルをまわしかけ
  230度のオーブンで10分〜15分ほど焼く。焦げ目が付き、竹串がすっと入れば焼き上がり。
2)おろした玉葱に醤油、酢を合わせてソースにして、焼き上がった南瓜にかけて頂く。

*ソースを多めに作って、南瓜をマリネにしても美味しいです。
*何にでも合うソースです。トマトのサラダや、温野菜にも良く合います。
*オーブンの温度、焼き時間は各家庭によって調節してください。

バックナンバー

ごあいさつ

第1回 蕪、酒粕、豆乳のスープ

第2回 黒豆、シナモン風味

第3回 鶏だしスープのトック(韓国雑煮)

第4回 干し大根のソテー、ケッパーソース

第5回 冬のジャム、生姜とはちみつ風味

第6回 おかき、三種

第7回 スパイシーチョコレートケーキ

第8回 カリフラワーのサブジ

第9回 春菊ペーストのパスタ

第10回 雪ノ下の天ぷら

第11回 長葱のクリームチーズ和え

第12回 春キャベツとささみの蒸し煮

第13回 新玉葱、ドライトマトのマリネ

第14回 サンドイッチフィリング、三種

第15回 クレソン、生姜のお稲荷さん

第16回 新じゃが、プルーンの煮込み

第17回 うちのトマトパスタとルッコラのサラダ

第18回 筍のピクルス

第19回 牛蒡(ごぼう)と胡桃のキャラメリゼ

第20回 おからたっぷりのスコーン

第21回 人参のサラダ、人参のポタージュ

第22回 生らっきょうのフリット、ローズマリー風...

第23回 味付け卵、八角風味

第24回 アイリッシュソーダブレッド

第25回 イカ、トマト、ミントの炒め

第26回 梅味噌、梅味噌豆

第27回 塩豚、茹で豚

第28回 ガーリックトースト

第29回 ローズマリーポテト

第30回 葉唐辛子、鶏肉のカレー

第31回 夏のキムチ三種

第32回 ラタトゥユ、ガスパチョ

第33回 生姜ジュース

第34回 セミドライトマト

無花果(いちじく)のソテー、サラダ、白味噌和え

第36回 南瓜(かぼちゃ)のグリル、玉葱のソース

第37回 緑のサラダ、赤のサラダ、黒のサラダ

第38回 蕎麦粉のガレット

第39回 柿、ディルのクリームチーズ和え

第40回 蛸(たこ)、青海苔のクリームソースパス...

第41回 ドライフルーツ、ナッツのケーキ

第42回 豚のスペアリブ、棗(なつめ)の煮込み

第43回 焼き芋、レモンバターソース添え

第44回 野菜ルーのカレー

第45回 コジード・ア・ポルトゲーザ(ポルトガル...

第46回 鰯の塩焼きとカルド・ヴェルデ

第47回 ヨーグルトパンケーキ

最終回 牛すじの煮込み


アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。


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