第39回 柿、ディルのクリームチーズ和え
古い一軒家に住んでいます。
楽器も置けて、演奏もできて
という条件も満たしてくれる上に
子供の頃に住んでいた家に似ているからか
とても落ち着ける空間です。
私が子供だった頃の70年代の家。
その頃建てられた多くがそうであったように
内装や外装にちょっとした工夫やこだわりがあって、
家のひとつひとつがとても個性的です。
ステレオタイプにはない存在感があって、
大きな魅力を感じます。
今、住んでいる家は、その昔
一人暮らしをしていたアパートから
駅までの道の途中にあります。
実はその頃から、通るたびに目に入る
黒いアイアンのキュートなデザインのベランダに
釘付けでした。
いつか、あんな家に住んでみたい!
そう思って、もっと仕事を頑張らなくては
と自分にいい聞かせてもいました。
あれから10年程たち、
縁あって、憧れだった家に住んでいます。
強く願うことで、叶ったのかもしれませんね。
キュートなデザインのアイアンは
玄関のドアの両側にも飾り付けられています。
家に帰る度に、いつも素敵な顔で迎えてくれます。
他にも愛すべきところがたくさんあります。
リビングには天井までの作り付けの戸棚、
台所や洗面所の使い勝手のいい小さな棚、
木枠の窓にレトロなガラス、建てた当時からのモダンな照明、
使い込まれて飴色になった木の床。
丁寧に作られた家には
自然に愛着がわいてくるものです。
愛着がわくことで、自分のものではないけれど、
確かに自分の帰る場所になるのです。
自分のベースに愛着が持てると、
毎日の生活も穏やかに過ごすことができます。
家の持つ力のおかげと言っていいかもしれません。
この家に来る前にも、
古い一軒家に住んでいました。
その家もやはり丁寧に作られていて、
作りつけの戸棚や、レトロなガラス窓に加え、
白い漆喰の壁が美しい家でした。
けれど残念なことに、世の中の大半の方は
デザインよりも便利さを求めるのでしょう。
まだまだ住める状態だったその家は取り壊され、更地になり
新しい3階建ての家が、土地いっぱいに建てられました。
その家には大きな柿の木がありました。
びっくりするほど甘くて濃い味の柿が
毎年鈴生りになりました。
とても一人では収穫できる量ではなくて
実家から応援を頼み、家族総出での収穫。
きちんと数えたことはありませんでしたが
おそらく300個はゆうにあったと思います。
収穫後は、それらを選別して
ご近所に配って回るのが恒例でした。
ご近所は、ご年配の方ばかりでしたので
いつも演奏ばかりして、うるさくしているお詫びとして
差し上げたのが最初です。
けれど、柿の美味しさのおかげもあって
結局、あれこれお返しをもらうことになり、
ご近所の皆さんと随分と仲良くなりました。
柿がとりもってくれた縁です。
秋に入り、柿が色づいてくると
今年は美味しくできているかしらねえ
と立ち話をするのも何気ない楽しい時間でした。
新しい家に引っ越してから、
その土地が売られて、すぐに更地になると聞き、
柿の木のことが頭をよぎりました。
美味しかった柿、ご近所の皆さんが心待ちにしている柿が
切られてしまうかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられなくなり、
美味しい柿の木ですから、どうか切らないでくださいと
せめて手紙でも残そうと、前の家に向かいました。
着いてみると、なんと引っ越してまだ
わずかな日にちしかたっていなかったというのに、
もうショベルカーが入っているではありませんか。
庭にあったたくさんの木々も
すっかり切り倒されて、なくなり、
家は瓦礫の山となっていました。
ああ、遅かったと目頭が熱くなったとき
瓦礫の後ろに柿の木が見えました。
更地になってから気付いたのですが
柿の木があるところだけが変形して
飛び出している形の土地だったのですね。
どうやらそのおかげで助かったようです。
瓦礫になった家を眺めるのは
言葉にならない喪失感でしたが、
柿の木が残っていたのが唯一の救いでした。
皆に愛された木だったから
助かったのかも知れません。
さて、その柿の木のおかげで
秋となれば、柿ばかりの食卓でした。
生で食べる他に、まずは
柿酒、柿ジャムなど保存できるものを。
目先を変えて、バルサミコ酢をかけて。
酸味とコクが加わって大好きな味です。
未熟なしゃきしゃきした柿なら
野菜と炒めてもとても合います。
アスパラと合わせました。
オリーブオイル、塩、胡椒でさっと炒めます。
おかずには丁度良い適度な甘みです。
アスパラが太めなら、先にゆがいおいてくださいね。
定番の柿なます(柿と大根)や
柿入りの白和え(柿と豆腐)などのように
あまり主張のないものと相性が良いようです。
白和えを、豆腐のかわりに
クリームチーズで作ってみると
パンに合う味になりました。
チーズにディルを加えるのはブルガリア風。
ブルガリアの友達に、日本の紫蘇のように
ディルを何にでも加えるのだと教わりました。
濃厚なクリームのアクセントになって
丁度良い塩梅です。
petit a petieのパンにのせて頂きました。
今でも、その柿の木は
たくさんの実をつけているようです。
新しく住んでいるご家族も
柿を楽しんでくれていれば嬉しいです。
ご近所の皆様にも配ってくれていれば
もっと嬉しいですね。(2009年10月13日更新)
柿とディルのクリームチーズ和え
材料(2人分)
柿 1/2個、クリームチーズ 100g、ディル(なければ好みのハーブで) 適量
1)柿はさいの目に切る。クリームチーズ、ディルは小さめに手でちぎる。
2)ボウルに全てを入れ、混ぜ合わせて、器に盛り、飾り用のディルを散らす。
*塩、胡椒をしても良いです。
*水切りをした豆腐を潰して加えると、クリーミーな白和えになります。
*混ぜにくいときは、手で混ぜてください。






























































アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。
