第44回 野菜ルーのカレー
これまで、本当に楽しく過ごして来ました。
元来、楽天的なので、あまり悩みません。
思いさえしっかり持っていれば、
たいていのことは叶うものだと思っていますし、
どんな選択であっても、結局は自分が選んだことなら
まわりまわって同じ結果になるとも思うからです。
流れにまかせつつ、楽しいことにアンテナをはって、
ピンと来たらそちらへ。
そんな感じでも結構人生は
うまくまる気がしています。
こんな楽天的な私ですが
二つだけ、後悔していることがあります。
一つは、中学生の頃。
私がまだ赤ちゃんだったときの声を
録音したカセットテープがありました。
父がそれを大切にとっておいたことを知りながら、
私は、流行のポップミュージックを
上から録音して消してしまいました。
その頃は、音楽にあけくれ
何より音楽が一番だと思っていました。
反抗期でもありましたし、
私の声なんかとっておいてどうするのだ
ぐらいにしか思っていませんでした。
あんなに可愛かった(であろう)声の持ち主が、
成長して、自分で消してしまうなんて。
あの時の、父の悲しい目が忘れられません。
今、父が大切にとっておいた気持ちが
ようやくわかるようになって
ひどいことをしてしまったなと思います。
もう1つは、友達のことです。
2年前に、ミュージシャン仲間を亡くしました。
言葉にするととても陳腐ですが
才能豊かで、強烈な感受性を持っていて、
天真爛漫で、純真無垢な可愛い人でした。
ちまたには、アーティストと名乗る人がたくさんいますが、
こういう人こそが真のアーティストなんだなと思わせる人でした。
一緒に演奏することで、どんなに刺激をうけたかわかりません。
彼女が、病気になったばかりの頃は、
お見舞いに行ったり、差し入れを届けたりと
何かと気にしていたのですが、
日が経つにつれ、だんだんと
その間隔があいていってしまいました。
丁度その頃、自分の仕事がとても忙しくなっていて、
正直、他の人のことをかまう余裕がありませんでした。
彼女も病気が回復して、ライブも再開したようだと
風の噂に聞いた後は、すっかり安心して
連絡をとらなくなってしまいました。
しばらくたって、丁度今頃の季節、
11月の終わり頃だったと思います。
彼女から一つの小包が届きました。
開けてみると、小さなビニール袋に
丁寧に小分けされたスパイスの数々。
クミン、コリアンダー、ターメリック、クローブ
などおなじみのものから
フェヌグリーク、サンバルマサラ、ナツメグフラワー
といった変わったものまで。
20種類ほどあったでしょうか。
大小様々な形、カラフルな色、
独特の鼻をつくスパイシーさも楽しくて、
さながらスパイスの宝箱でした。
カードが添えられていて、
少し早いクリスマスプレゼントです。
カレー食べにおいで。
と書かれていました。
インドに旅行に行ったとも聞いていたので
そうか、すっかり元気になったのだと
スパイスの向こうに、
楽しく旅している彼女を思い浮かべました。
カレー食べにおいで。
最近、全然連絡とってなかったし
遊びに行こうと、彼女の言葉に思いました。
その頃、さらに仕事が忙しくなって
休みはほとんどとれなくなっていました。
それでも何度か連絡をとったのですが、
彼女と予定が会わなかったことが続き、
遊びにいくチャンスはないままでした。
そうこうしているうちに、冬は終わり、
春がきて、夏になりました。
日々はあっという間にすぎるものです。
夏の終わり、共通の知人から
彼女の具合がよくないらしいと
メールが届きました。
良くなっているとばかり思っていたので
寝耳に水でした。
ようやく日にちをとって
会いに行けたのは、
彼女が亡くなる前日。
実は会った瞬間に、
次の日のことが予想されてしまいました。
彼女が旅立ってしまうかもしれないのに、
今日の今日までいったい私は
何をしていたのだろう。
本当にそんなに忙しかったのか。
ちょっと顔を出すくらいの時間ならあったんじゃないのか。
何故、もっと早く会いに来なかったのか。
カレー食べにおいで。
手紙ももらっていたのに。
後悔の念で、いっぱいになりました。
彼女が私のことを待っていてくれたかもしれないのに、
私はそれに応えなかった。
何もしなかった。
ひどい友達、いや、
友達だなんて言えないなと思いました。
次の日朝早く、彼女は
天に旅立って行きました。
お通夜や葬式で号泣したのは、
何もできなかった悔しさからでした。
少し時間がたって、ライブで
彼女の曲を演奏するようになりました。
彼女を思って曲も書きました。
いつも楽しそうにしていた彼女なので、
楽しい気持ちになれる歌にしようと思いました。
それらは新しいアルバムや
DVDにも収録しました。
残された者は、思い出すことぐらいしかできません。
私にできることは、彼女の曲を演奏したり、
彼女を思って曲を歌ったり、それを誰かに届けたり、
それくらいしかありません。
それが何になるわけでもないし、
自己満足でしかないとも思います。
それでも、そうでもしないと
自分の中で、ケリがつかないのです。
カレーを作ることも同じです。
スパイスを使うたび、彼女を思い出します。
もらったスパイスで、
私はいくつものカレーを作りました。
彼女の作るカレーは、野菜がたっぷりの
ベジタリアンカレーだったそうです。
きっと野菜の滋味溢れる、優しい味
だったのではないかなと思います。
いつか同じようなことが、もし起こることがあれば、
自分の気持ちが納得するまで、その人と接したいと思います。
いくら後悔しても、
亡くなってしまってからでは
何もできないのです。
会いたい人に会って、
好きな人には好きと言って、
謝っておきたい人には一日も早く伝える。
自分のことにおいても、
やりたいこと、やるべきことをきちんとやって、
一日をしっかりと生きる。
決して後悔のないように。
野菜ルーのカレーを頂きながら
いつも思うことです。
野菜ルーのカレー
材料:野菜ルー: 玉葱 2個、 人参 1〜2本、 セロリ 1本、 トマト 2個、
カリフラワー 1/2株、 果物(りんご、梨、完熟の柿など) 1個、
にんにく 2かけ、 しょうが 2〜3かけ、
塩、胡椒 適量、 オリーブオイル 大さじ1
具材:大根 1/3本、 生しいたけ 5〜6個
スパイス:ターメリック 大さじ1、 コリアンダー 大さじ2、 クミンシード 小さじ1、
カルダモン、ナツメグ、クローブ、レッドペッパー、シナモン、ガラムマサラ 適量
1)玉葱は繊維と垂直にスライス、人参はすりおろす。カリフラワーは細かく小房に分け、
セロリは茎の部分をみじん切りに、トマトは乱切りか握りつぶす。
果物はすりおろすか、完熟した柿なら皮をはいで、握りつぶす。
2)鍋にオリーブオイル、すりおろしたにんにく、生姜、クミンシードを入れ、
香りがたったところに、野菜・果物を入れる。ざっと炒めて、全体に油をまわす。
3)しんなりしたら、水をひたひたに入れて強火にかける。
沸騰したところで弱火にし、1時間ほどゆっくり煮込む。
4)野菜が溶け合って、とろとろになったら、拍子木切りした大根、そぎ切りした椎茸を入れ、
それらに火が通るまで煮込む。
5)塩、胡椒で味を整え、美味しいスープになっていることを確認してから、スパイスを入れる。
しばらく煮込んでから頂く。
*野菜ルーに使う野菜は、玉葱さえあれば、全部揃わなくても構いません。
*野菜ルーに、じゃがいも、かぼちゃなども良く合います。崩れてねっとりとしたルーになり、
甘みも加わります。余っている野菜の整理ついでに、いろい入れてお試し下さい。
*本日のカレーは野菜ルーをベースに旬の大根、椎茸のカレーとしました。具材はお好みで。
*野菜だけの優しい味に仕上がります。
パンチのある味にしたいときは、野菜ルーをベースにブイヨンやコンソメなどのスープストックや、
出汁の出る肉、魚介、乾物などを入れて好みの味にしてください。
*スパイスの代わりに、カレー粉(大さじ3弱)で構いません。
*仕上げに好みでバターを入れるとコクが出ます。
*作った翌日、翌々日が味がまとまり美味しくなってゆきます。頂くたびに火にかけて下さい。
お知らせ:
11月29日 18時よりアップルストア銀座店にて
良原リエ参加のユニットsmall colorの
アルバムリリース記念イベントライブがあります。
無料で観覧頂けますので、どうぞお越しください。





















































アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。
