第8回 カリフラワーのサブジ

あるとき、音楽から
離れてみようと思う時がありました。

当時、一緒に演奏するメンバーや関わるスタッフと
意思の疎通がうまくいかなくなり
レコード会社も事務所も辞めてしまって。

自分はこんなに頑張っているのに
どうして皆に伝わらないんだろうと悩み、
そしてそれを人のせいにしていたように思います。

今思えば、一人で空回りしていただけなんだけれど。
まあ、若い頃にはよくあることですね。
  
  
ともあれ、自分から辞めてしまったので
その先の予定がぱったりとなくなりました。

心身ともに疲れ果てていたので
音楽をやろうという気分には全くならなくて
何か、全く違うことに没頭したいなと
図書館内を物色。
「インドスパイス料理」という大きな本に
目が止まりました。

ぱらりとめくると、丁寧に説明された
色とりどりのスパイスの数々。
そういえば、スパイスはあまり詳しくないよなあと
この本としばらく付き合ってみることに決めました。
  
  
軽い気持ちで始めたスパイスの勉強が
最初に作ったカリフラワーのサブジで
その魅力にどっぷりとはまることに。

普段、カリフラワーと言えば
茹でてそのまま頂いたり
炒めたりする程度だったのが、
複雑に絡み合ったスパイスが
カリフラワーのつぼみの部分(先端の歯触りの良いところ)に染みこむと
それまで知らなかったカリフラワーの魅力が
全開するように感じて、驚きました。

スパイスの奥深さに感服しました。
  
  
あまりに美味しくて、
スパイスの配合を変えながら
何度も何度も作ってみました。
作るたび、やっぱりすごいなあと
毎回感激しました。

そして作りながら
まだまだ知らないことが
たくさんあるなんだなあということに気づきました。

それはスパイスはもちろんのこと
それだけでなく、音楽の上でのことも。

そしてまだ出会ってない人や物も
山ほどあるんだろうなあと。

そのうち、知らないことがたくさんあると言うのに
何で立ち止まっているのだろうと
気持ちが変化してゆきました。
  
  
結局、カリフラワーのサブジで
少し人間不信になりかけていた
私の心は、またもとの場所に戻ったように思います。

知らなかったこの味に出会って
こんなに嬉しい気分なのだから
もっと知らない何かに出会ったら
またびっくりするくらい感動するんじゃないか
そういう前向きな気持ちに。

スパイスを入れている不揃いなビンは
その頃からずっと使っています。
ペンキでビンの蓋を同じ色に塗って並べたりするのも
一人暮らしならではの楽しみでした。

小さかったけれど
日差しがたくさん入って
明るい気持ちで料理ができた
アパートのキッチン。

少しずつ増えていくスパイスのビンを
並べていくのが楽しかったなあと
今も思い出します。

きっとあの時、私は
良い方向に行く選択ができたのだと思います。

そしてそれは
この料理のおかげに違いないのです。(2009年2月17日更新)

コラム

カリフラワーのサブジ


材料:カリフラワー 1株(300g程度)、オリーブオイル 大さじ3、
にんにく 1かけ、生姜 1かけ(20g程度)、
クミンシード 小さじ1、ターメリック 小さじ1、
コリアンダー(粉末) 小さじ1、レッドペッパー 小さじ1、
(あれば)フェンネルシード 小さじ1、
水、大さじ3、塩 小さじ1、醤油 小さじ1

1)鍋にオリーブオイルをひき、クミンシードを入れ、ごく弱火にかける。
2)クミンシードからしゅわしゅわと泡が立ち始めたら、
  すりおろしたにんにくと生姜、小房に分けたカリフラワーを入れ
  中火にして炒める。
3)油がまわったら、塩、水を入れ、蓋をして弱火で蒸し焼きにする。
4)カリフラワーがしんなりとしたら、スパイスを入れ中火にして炒める。
5)最後に醤油をまわし入れ、水分が飛んだら仕上がり。

*冷めても美味しく頂けます。
*ヨーグルトを大さじ2ほど入れ炒めると、コクが出ます。
*スパイスが揃わない場合は、カレー粉大さじ1強でも作れます。

バックナンバー

ごあいさつ

第1回 蕪、酒粕、豆乳のスープ

第2回 黒豆、シナモン風味

第3回 鶏だしスープのトック(韓国雑煮)

第4回 干し大根のソテー、ケッパーソース

第5回 冬のジャム、生姜とはちみつ風味

第6回 おかき、三種

第7回 スパイシーチョコレートケーキ

第8回 カリフラワーのサブジ

第9回 春菊ペーストのパスタ

第10回 雪ノ下の天ぷら

第11回 長葱のクリームチーズ和え

第12回 春キャベツとささみの蒸し煮

第13回 新玉葱、ドライトマトのマリネ

第14回 サンドイッチフィリング、三種

第15回 クレソン、生姜のお稲荷さん

第16回 新じゃが、プルーンの煮込み

第17回 うちのトマトパスタとルッコラのサラダ

第18回 筍のピクルス

第19回 牛蒡(ごぼう)と胡桃のキャラメリゼ

第20回 おからたっぷりのスコーン

第21回 人参のサラダ、人参のポタージュ

第22回 生らっきょうのフリット、ローズマリー風...

第23回 味付け卵、八角風味

第24回 アイリッシュソーダブレッド

第25回 イカ、トマト、ミントの炒め

第26回 梅味噌、梅味噌豆

第27回 塩豚、茹で豚

第28回 ガーリックトースト

第29回 ローズマリーポテト

第30回 葉唐辛子、鶏肉のカレー

第31回 夏のキムチ三種

第32回 ラタトゥユ、ガスパチョ

第33回 生姜ジュース

第34回 セミドライトマト

無花果(いちじく)のソテー、サラダ、白味噌和え

第36回 南瓜(かぼちゃ)のグリル、玉葱のソース

第37回 緑のサラダ、赤のサラダ、黒のサラダ

第38回 蕎麦粉のガレット

第39回 柿、ディルのクリームチーズ和え

第40回 蛸(たこ)、青海苔のクリームソースパス...

第41回 ドライフルーツ、ナッツのケーキ

第42回 豚のスペアリブ、棗(なつめ)の煮込み

第43回 焼き芋、レモンバターソース添え

第44回 野菜ルーのカレー

第45回 コジード・ア・ポルトゲーザ(ポルトガル...

第46回 鰯の塩焼きとカルド・ヴェルデ

第47回 ヨーグルトパンケーキ

最終回 牛すじの煮込み


アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。


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