第15回 クレソン、生姜のお稲荷さん

去年の今頃、長野の大町で
縁あってライブをさせて頂きました。

松本から車で小一時間のところにある大町ですが
松本に行くことはあっても、なかなか大町まで足を伸ばす方は
少ないのではないかと思います。

けれど大町は、自然にあふれ
いろいろな実りを楽しむことができる
それはそれは素敵なところなのです。
たくさんの方に訪れてもらいたい場所です。

写真は静かな湖、木崎湖から。

ライブは地元の方々の協力もあって
演奏するこちらも感極まってしまうほど
良い時間となりました。

次の日、せっかくなので、と
主宰者でもある私と同い年のYさんが
大町を案内してくれました。

その中で忘れられない光景があります。
湧き水に自生しているクレソンの群れです。
いきいきとした緑が
透明な水の中できらきらとゆらめいて
それはため息がでるほどきれいでした。

私と同じく料理好きな彼女は
この時期になると自生するクレソンを
収穫してまわるのだと
とっておきの場所を教えてくれたのでした。

クレソンは水のきれいなところにしか
生えないと言われています。
そのクレソンがこんなに溢れるほど自生しているなんて。
自然が清らかで美しいままという証です。

そしてそんな場所をしっかりと把握して
芽吹く緑を旬の時期に
しっかりと楽しんでいる彼女。

うらやましさは通りこして
自然を、大町を愛している姿が
とてもかっこよく見えました。

私の住んでいる辺りには
クレソンに勝るような
素敵な光景はなかなかありません。
やっぱり自然がもたらす美しさには
かなわないなと改めて思ったのでした。


 
クレソンぐらいで感動するなんて
不思議に思うかもしれませんが
クレソンには他にも思い出があるのです。

随分前のことですが、
自分の音楽の在り方を迷っていたとき
クレソンをコップに差して置いていた窓辺を眺めていたら
わいてきた曲がありました。

クレソンが水を吸って
いきいきと力強い緑色をはなっている姿に
心が動かされたのです。
私よりずっと強く生きているなあと。
迷っている何かがふっと消えて
メロディーとなって降りてきました。

そのピアノ曲にはwatercress(クレソンの英名)
というタイトルをつけました。
その曲を弾くたびに勇気づけられて
また新しい作品を作る力になったのです。

そんな個人的なエピソードもあって
クレソンは私にとって大切なものの
ひとつなのです。

だからあんなに
うらやましく思ったのかもしれません。
 

さて、みずみずしいクレソンは
付け合わせだけではもったいない
いきいきとした風味が溢れています。

そのまま塩をさっとふって
ぽりぽり頂いたりもします。

たくさん手に入ったなら
炒めても、さっと湯がいておひたしにしたり
オリーブオイルをたらして頂くのも好きです。

大町ではクレソンの天ぷらも頂きました。
言わずもがな、それはそれは美味しかったです。
 

せっかく桜の季節なので
お花見がてら、近所の公園で頂きたいなと思い
作ることにしていたお稲荷さんのすし飯に
混ぜ込んでみました。

生姜とともに、つんとした個性的な香りが
油揚げのじゅわっとした甘さの中から現れて
良いアクセントになりました。
彩りが鮮やかになるのもいいですね。
 
大町の穫れたてのクレソンには負けますが
あのとき見た、素敵な光景を思い出しながら
頂くことにします。(2009年4月7日更新)

コラム

クレソン、生姜のお稲荷さん


材料:炊きたてのご飯 2合、油揚げ 10枚、クレソン 1束、生姜 適量
合わせ調味料:水 1カップ、醤油 大さじ3、黒糖 大さじ5、酒 大さじ3
合わせ酢:酢 大さじ3、甜菜糖(砂糖) 大さじ2、塩 小さじ1

1)油揚げは油抜きをして、半分に切り、袋状に丁寧に開く。
2)合わせ調味料を鍋で煮立て、黒糖をしっかり溶かした後に、
  油揚げを入れて煮汁が少なくなるまで煮込む。
3)炊きたてのご飯を飯台かボールにあけ、合わせ酢を3〜4回に分けて入れながら、
  しゃもじで切るように手早く混ぜる。
4)すし飯が人肌に冷めたら、千切りにした生姜、さっと湯がいて水気を絞り、
  2センチ程度に切ったクレソンを混ぜ合わせる。
5)ざるにあげ、冷まして水分を落とした油揚げに、すし飯をつめて頂く。

*ご飯は昆布を入れて炊いておくと、より風味の良い酢飯になります。
*油揚げは、全体が飴色になるよう、上下を破れぬよう優しくひっくり返しながら煮詰めてください。
*クレソンは生のまま入れると、より香りが立って美味しいです。

バックナンバー

ごあいさつ

第1回 蕪、酒粕、豆乳のスープ

第2回 黒豆、シナモン風味

第3回 鶏だしスープのトック(韓国雑煮)

第4回 干し大根のソテー、ケッパーソース

第5回 冬のジャム、生姜とはちみつ風味

第6回 おかき、三種

第7回 スパイシーチョコレートケーキ

第8回 カリフラワーのサブジ

第9回 春菊ペーストのパスタ

第10回 雪ノ下の天ぷら

第11回 長葱のクリームチーズ和え

第12回 春キャベツとささみの蒸し煮

第13回 新玉葱、ドライトマトのマリネ

第14回 サンドイッチフィリング、三種

第15回 クレソン、生姜のお稲荷さん

第16回 新じゃが、プルーンの煮込み

第17回 うちのトマトパスタとルッコラのサラダ

第18回 筍のピクルス

第19回 牛蒡(ごぼう)と胡桃のキャラメリゼ

第20回 おからたっぷりのスコーン

第21回 人参のサラダ、人参のポタージュ

第22回 生らっきょうのフリット、ローズマリー風...

第23回 味付け卵、八角風味

第24回 アイリッシュソーダブレッド

第25回 イカ、トマト、ミントの炒め

第26回 梅味噌、梅味噌豆

第27回 塩豚、茹で豚

第28回 ガーリックトースト

第29回 ローズマリーポテト

第30回 葉唐辛子、鶏肉のカレー

第31回 夏のキムチ三種

第32回 ラタトゥユ、ガスパチョ

第33回 生姜ジュース

第34回 セミドライトマト

無花果(いちじく)のソテー、サラダ、白味噌和え

第36回 南瓜(かぼちゃ)のグリル、玉葱のソース

第37回 緑のサラダ、赤のサラダ、黒のサラダ

第38回 蕎麦粉のガレット

第39回 柿、ディルのクリームチーズ和え

第40回 蛸(たこ)、青海苔のクリームソースパス...

第41回 ドライフルーツ、ナッツのケーキ

第42回 豚のスペアリブ、棗(なつめ)の煮込み

第43回 焼き芋、レモンバターソース添え

第44回 野菜ルーのカレー

第45回 コジード・ア・ポルトゲーザ(ポルトガル...

第46回 鰯の塩焼きとカルド・ヴェルデ

第47回 ヨーグルトパンケーキ

最終回 牛すじの煮込み


アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。


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