第19回 牛蒡(ごぼう)と胡桃のキャラメリゼ
ツアーが終わりました。
日々、音の重なりが
どんどん良くなっていくのを感じられる
とても楽しい旅でした。
旅から戻って、普段の日々です。
普段の日々というと、
きっといろんな音楽に触れているのだろうと
思われることが多いのですが、私の場合
家で音楽を聴くことはほとんどありません。
ミュージシャンらしからぬ発言ですみません。
自身の音楽だけでなく、嬉しいことに
多くの方の音楽に関わる機会に恵まれていますが
それは、アーティストそれぞれのメッセージや
音楽の持つ強い力を間近に感じながら
一緒に伝えようと試行錯誤することでもあります。
これはなかなかエネルギーのいることで
終わった後は抜け殻のようになってしまいます。
そのせいか、家に帰ると、
少しの時間は音楽から離れて
無音で過ごしたくなるのです。
音のない空間もとても好きです。
静かに過ごしていると
木々にやってきた鳥のさえずりや
近所の犬や猫の鳴き声、
誰かの足音、ポストに手紙が落ちる音、
手巻きの時計の針の音など
いろんな音が聴こえて来ます。
もう5月に入ったので、窓を開け放つようになり、
和室にかけてある風鈴も心地良く鳴ってくれます。
それらは我が家の音でもあります。
その空気感を味わうほうが落ち着くのです。
そういう理由で、普段あまり音楽を聴かないのですが、
1枚だけ特別扱いのものがあります。
私は、作曲家やアーティストを掘り下げて調べたり、
アルバム全てを揃えたり、といったことにはあまり興味がなく
音楽評は苦手なのですが、
どうしてこの1枚だけは特別なのかということを
私なりに書いてみます。
「エリック・サティ ピアノ曲集」
シンプルで無駄がなく、
たたみかけるような押し付けがましさもなく、
とても客観的な視点の曲が多いように思え、
音楽でいっぱいになってしまった頭には
ちょうど良い塩梅なのです。
エリック・サティと言えば、
「ジムノペディ」や「ジュ・トゥ・ヴー」のような
聴き心地の良い、優しく甘いメロディーを
思い出す方も多いでしょう。
もちろんそれらの美しいメロディーにもうっとりするのですが
サティの魅力は他にもあります。
私の持っているアルバムには
「はららごの干物」という曲が入っています。
はららごとは、なまこのことです。
タイトルから気付くかもしれませんが、
少しひねくれた曲です。
ユーモアを感じる部分、ひねくれた部分が見え隠れして
この1曲だけを聴いたなら
なんだか落ち着かない気持ちにもなります。
けれどアルバムを1枚通して聴くと、
前述したような美しい曲と交互に現れ、
それぞれが引き立てあっていることに気付きます。
美しい曲はよりその美しさが際立ち、
ひねくれた曲はその面白さに気がゆるみ、
ほのぼのした気持ちになるのです。
そのバランスがとても素敵なのです。
音楽でも料理でもそうですが、
美しいもの、美味しいものばかりを毎日頂いていると、
必ず飽きるときがやってきます。
以前、とある機会があって
高級ホテルのディナー、フルコースを
1週間続けて食べたことがありますが
楽しかったのは数日だけで、後半は
ほとんどお皿に手を付けることができなかった
という経験があります。
美味しいものを美味しいと
感じられなくなってしまうなんて、
なんて贅沢なのでしょうね。
でもその味にすっかり飽きてしまい、
食べられなかったというのが事実なのです。
何事にも緩急が大事なのですね。
例えば、誰もが認める美しいもの、美味しいものと
好き嫌いが分かれるようなユニークなもの。
両方並んだときにこそ、それぞれの良さがよりわかると感じます。
案外忘れそうなこのことを思い出させてくれます。
料理を考えるときもそうです。
まずいものをわざわざ作ろうというのではありませんが
時々はいつもと違った角度から素材を見るようにしています。
この素材はこうしたら一番美味しいという王道が
どの素材にも必ずあります。
そこをわざとはずします。
ちょっとひねくれているようですが
そのひねりが新しいアイデアを生み出し
その人の個性が出るところになります。
そしていくらでも創造していくことのできる
料理の一番の楽しみにたどりつけると思うのです。
甘い物を食べたくなったとき、
卵や牛乳、小麦粉が揃っていたら、
よくあるスイーツを作ることは簡単ですが
ぱっと目についたものをおやつに仕立てあげてみる
なんてこともよくトライします。
今日、テーブルの上にあったのは、新牛蒡でした。
揚げた牛蒡も好きなので、カリッとしたら美味しいだろうという考えと
きんぴら牛蒡をイメージして、きっと甘く仕立てても大丈夫だろう
という予想を合わせて、キャラメリゼにしました。
かりかりと香ばしく甘い、かりんとうのような牛蒡。
牛蒡の繊維質の歯触りが残って楽しい食感になり、
甘さの中にかすかな牛蒡の土の香りが見え隠れして、
素朴なおやつになりました。
胡桃と合わせて頂くことにしました。
せっかくなので、大好きなアルバムをかけて
音のひねりと味のひねりの両方を
楽しみたいと思います。
余談ですが、新牛蒡は端から
緑の芽が出ていることがあります。
緑フェチ?としては放ってはおけません。
ひとまず花壇に仲間入りさせて
様子をみることにします。(2009年5月12日更新)
牛蒡と胡桃のキャラメリゼ
材料:牛蒡 適量、胡桃 適量、オリーブオイル 適量、甜菜糖(または砂糖、グラニュー糖) 適量
1)牛蒡は洗って、食べやすい大きさにスライスする。
2)フライパンにオリーブオイルをひき、牛蒡をカリッとなるようにソテーする。
胡桃も加えて軽くソテーする。
3)甜菜糖を具材全体にふりかけるように入れる。焦げ付かぬように弱火でソテーしていき、
甜菜糖がまとわりついてキャラメル色になったら火から降ろし、冷ましてから頂く。


























































アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。
