第20回 おからたっぷりのスコーン
ときどき料理をしながら
初めて一人暮らしを始めたときのことを
ふと思い出すことがあります。
思い立ったら即行動するタイプなので
とにかく一人で暮らしたい、ということしか頭になく、
さっさと部屋を決め、家具や家電製品もほとんどないまま
引越してしまいました。
引越だけでお金を使い果たしてしまったので
数ヶ月は、冷蔵庫もないままでの暮らしでした。
その頃の私といえば
ミュージシャンとしては駆け出しで、
ほとんど仕事もなく、もちろんお金もなく
家賃を稼ぐだけで精一杯。
いかにお金をかけずして、
日々を暮らすか、ご飯を食べるか
というのが大きなテーマでした。
料理においては、食材を無駄なく全て使い切る、
いろいろな料理に応用するのは当たり前のこととなり、
少ない予算でいかに楽しく、美味しく頂くかということでも
鍛えられたと思います。
食べ物に限らず、限られた予算内で
自分の好きなものをきちんと選んで買う
ということも鍛えられました。
お金がないからといって
デザインや機能が気に入らないのに
間に合わせで買ってしまっては
結局、一番欲しかったもののことが
頭から離れないものですよね。
自分が本当に欲しいものの条件を把握して
それを予算内で買う、それまでは我慢する。
見つけたときは、本当にそれでいいのかよく吟味する。
私なりの審美眼が鍛えられたように思います。
例えば、このコーヒーケトル。
学生時代にコーヒー専門店で働いたことがあり、
コーヒーをいれるなら、銀色のこの形のケトルでなくては
と探していました。しかも予算は500円で。
探し始めてから、ゆうに1年はたった頃でしょうか。
たまたま出くわした三軒茶屋でのフリマで
デッドストックのコーヒーケトルを300円で発見。
予算内で、新品。しかも
色も形も私がイメージしていたそのものでした。
我慢した甲斐がありました。
あれから毎日、15年近く、
美味しいコーヒーを入れてくれています。
例えば、この扇風機。
よくあるプラスチック製のものには興味を持てず、
部屋に馴染む、カラフルすぎない色合いで、
しっかりとした作りのものを探していました。
ある日、近所のリサイクルショップで見つけた
この扇風機は、真っ黒で威厳があり、風格があって
まさに私がイメージしていたものでした。
売値は5000円と予算オーバーな上、
当時の私にとっては、大金だったので悩みましたが、
何度もそのお店に通い、いろんな角度から確認して
ようやく我が家の仲間入りをしました。
扇風機がない頃は、じっとりと汗をかきながら我慢していたので
初めて風を送ってくれたときの心地良さを
はっきりと思い出すことができます。
今でも和室で、きちんと働いてくれています。
少しずつ、自分のできる範囲で
暮らしを組み立てていく日々でした。
お金はありませんでしたが、努力と工夫で
楽しんで切り抜けていたように思います。
そんな頃、よく作っていたのが
おからをたっぷりと使ったスコーンです。
おからはタダ同然で手に入るのに、
焼きたてを頂けば、パン屋さんで買うのとなんら遜色のない
美味しいスコーンを楽しむことができました。
よく手みやげとして、友達にもプレゼントしていましたが
当時は、おからが入っていることを
ほとんど言ったことがありません。
安価なおからを使っているなんて、
お金がなかったからこそ、恥ずかしくて言えなかったのです。
お金がないことは別にたいしたことではないのに、
小さな見栄をはりたかったのです。
あの頃は、たくさんの友達、先輩、知人が
私の貧乏生活を見るに見かねて、
家庭用品をくれたり、洋服をくれたり、
ご飯をごちそうしてくれたりしました。
普段着以外にも衣装が必要なので
特に、洋服は助かりました。
今、あの頃よりは少し余裕が出て来たので、
ご飯をごちそうするのはもちろん、
着なくなった洋服は段ボールにまとめ
後輩のミュージシャンにあげるようにしています。
自分がしてもらったことと同じことをすることで
恩返しができるような気がするからです。
こうして思い返すと、
今、音楽を通してたくさんの方に出会えたり、
いろんな場所に演奏しにいけることが夢のようです。
がむしゃらに頑張っていた自分を振り返りながら
今の日々に感謝して、大切に過ごさなくてはと
スコーンを頂くたびに思います。(2009年5月19日更新)
おからたっぷりのスコーン
材料:おから 2カップ、小麦粉 1.5カップ、ベーキングパウダー 大さじ1、
無塩バター 50g、卵 1個、甜菜糖(または砂糖) 大さじ1、塩 ひとつまみ、
豆乳(または牛乳) 適宜
1)フライパンでおからを炒り、水分を飛ばす。
2)冷ましたおから、合わせてふるった小麦粉とベーキングパウダーをボウルに入れる。
冷やしておいたバターを小さく切って加え、手のひらや指でつぶしながら混ぜ全体になじませる。
3)溶き卵、甜菜糖、塩を入れ、ざっくりと混ぜる。粉っぽいようなら豆乳を少しずつ入れ、
まとめ、冷蔵庫で30分〜1時間程寝かせる。
4)打ち粉(分量外)をしたまな板の上で、厚さ1.5センチほどに伸ばしコップなどを型にして抜く。
5)180度に熱しておいたオーブンで、12〜15分ほど焼いて頂く。
*おからは生のままでも大丈夫ですが、炒ると独特の匂いがやわらぎます。
*おからは傷みやすいので、余ったら、炒って冷凍保存をおすすめします。
*3)では、生地がまとまればよいので、豆乳の分量は調節してください。必要ない場合もあります。
*型抜きをした時点で、ひとつずつラップをして冷凍保存すれば、
食べたい時にすぐに焼きたてを楽しめます。
*オーブンの温度、焼き時間は各家庭によって調節してください。






















































アコーディオン・トイピアノ・鍵盤ハーモニカ・オルガンなど、ノスタルジックな味わいをもつ楽器を得意とする鍵盤奏者、音楽家。空気公団・ハンバートハンバート・Akeboshiなど、多くのアーティストのライブ・レコーディング・CM・TVの音楽などに、さまざまな楽器でかかわるほか、ソロプロジェクトであるtrico!やギタリスト・オオニシユウスケとのユニットsmall colorでもアルバムをリリースしている。最近は、スイス絵本の名作『こねこのぴっち』のDVD化にあたり、音楽を担当(2009年1月発売予定)。またインテリア誌「かわいい音楽すてきな暮らし」でレシピ・料理・スタイリングを担当。日々の暮らしを大切にしながら、さまざまな活動を楽しんでいる。

音楽家・良原リエさんによる、暮らしのエピソードとそれにまつわる日々のご飯のレシピ。本人撮影による四季折々の写真とともに、<ありふれた材料でできる簡単な料理をよりよくするためのコツ>を提案していきます。好きなモノ・コトに囲まれた、実のある暮らしを大切にしているリエさんならではの切り口が、「普段の生活」の大事さをあらためて教えてくれるはず。
